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【第4回】クリエイターと生成AIのリアル|”AIに負けないクリエイティブ”を創るには?

2025/03/28作成
デジタルハリウッドアカデミーでは、デジタルハリウッドにゆかりのある様々なクリエイターに生成AIのクリエイティブ活用をインタビューしています。今回は、デジタルハリウッド大学・大学院卒業生で、デジタルクリエイティブの制作会社を経営されている藤吉香帆さんにお話を伺いました。

Q. 現在どのような活動をしているのか教えてください。
藤吉:デジタル中心の制作会社を経営し、動画制作をメインに、デザインやウェブサイト制作を手がけています。特にインターネット広告の分野では、大量生産とA/Bテストを繰り返しながら最適なクリエイティブを生み出しています。また、企業の公式YouTubeチャンネル向けの動画制作や、SNSコンテンツの企画・制作、YouTuberやストリーマーへの育成支援なども行っています。

Q. デジタルハリウッド大学で教員もされていますね。
藤吉:はい、映像制作の演習を担当しています。また、デジハリ・オンラインスクールでAfter Effectsの教材講師を務め、AX(AI・デジタルトランスフォーメーション)の文脈で企業や社会人向けに、LLMや画像・動画分野の生成AIをどのように活用するかについても講演する機会が増えました。

Q. 藤吉さんは白井暁彦特任教授のAIコミュニティに関わっていると伺いましたが、具体的にはにはどのように関わるようになったのですか?
→参考:白井暁彦特任教授インタビュー
生成AIがクリエイター教育にもたらす未来と課題~教員の使命とは~
https://academy.dhw.co.jp/knowledge/generativeai-interview-4/
藤吉:3年ほど前から関わっています。もともとデジタルハリウッド大学院の白井先生の授業を受けたことがきっかけで白井先生と知り合ったのですが。白井先生から動画制作などのお仕事を発注いただくようになり、白井先生が開催するAI関連のイベントに参加し、その様子を撮影する仕事を通じてAIに興味を持ちました。

Q. 現在、どのようなAIツールを使用されていますか?
藤吉:主にMidjourneyやNiji・Journeyを使っています。特にNiji・Journeyは、一貫性のあるキャラクターを作成する実験としてよく活用しています。また、ChatGPTも使用しますが、現時点では「これがないと困る」というほどではありません。


■藤吉さんが生成AIを使って制作した自画像 プロフィールに使用しているそうです

Q. クライアントワークでのAI活用について教えてください。
藤吉:生成AIの活用で言えば自社コンテンツ制作が主ですが、クライアントワークでは背景制作に利用することが多いです。例えば、季節感を出すための桜や紅葉の画像を生成したり、ストックフォトの代替として使ったりしています。ただし、クライアントには「生成AIを使って作ります」と伝えるのではなく、単に素材の一つとして成果物の中にあるという形です。最終的に背景としてぼかして使うことが多く、どのツールを使ったか・どのストックフォトを使ったかが重視されない案件だからです。私が請け負う案件は「大量に制作した中から、良いものを選んで使う」というスタイルのため、いわゆるキービジュアルのようなものではなく、とにかく大量のバリエーションを作る必要がある際に、権利上問題のない範囲で生成AIを活用しています。

Q. 生成AIが登場したことで、クリエイターの仕事にどのような影響を与えると思いますか?
藤吉:例えばイラストの分野では「AIが主役になるのでは」と不安視する声もありますが、「誰が描いたか」という点がイラストレーターの付加価値として存在していることは間違いありません。実際にイラストを使うような仕事の場面では、イラストレーターさんに発注することが多いです。たとえ、AIで作ったイラストでも問題ないような場面であっても、イラストレーターさんに依頼した方が、想像の上を行く仕上がりになることが多いのです。それゆえクリエイターの仕事がなくなるとは思っていません。AIはアイデアの壁打ち相手として有用ですが、「飛び抜けて素晴らしいもの」を生み出せるのは結局人間だと考えています。

Q. 自分の作品が生成AIに学習されたら、どのように感じると思いますか?
藤吉:私の業務上の成果物は、主に「正しく見せるためのグラフィック」なので、学習されることに強い抵抗感はありません。「それを学ばれたところで、教科書にも書いてあるしなぁ」という気持ちがあります。ただし、実写風映像を制作する際に、既存の人間に似せたものをAI生成するのは、肖像権の問題になることがあるかもしれません。つまり、私が請け負うようなイベント記録などの実写映像の制作はAIでは代替できないのです。そのため、AIが発展しても「自分のやっていることはAIには負けない」と思っています。

Q. クリエイティブ業界での生成AI活用は必須になっていくのでしょうか?
藤吉:必須ではありませんが、使ったほうが効率的なことは多いです。特に企画やアイデア出しの段階では、AIが有用な壁打ち相手になります。ただし、一定のスキルがある人は使う必要は無いでしょう。例えば、新入社員向けに「ビジネスメールに書き換えて」とAIに指示を出すことは、“注目されやすい”トピックのひとつだと思います。しかし、実際には、慣れてくると自分でメールを打った方が早い場合もありますよね。命令を入力している間に、メールを書き終えてしまうからです。繰り返しになりますが、すでに訓練を積んでいて、ある程度のスキルがある人は、AIを使わなくてもやっていけると思います。

Q.藤吉さんはもともと高いスキルを持っているからこそ、「自分でやった方が早い」と感じる場面が多いと思った一方で、スキルが乏しい学生や未経験者はどのように生成AIを活用すると良いのかが気になりました。
藤吉:生成AIを活用すると“学習スピード”が速くなります。例えば、教科書を読むよりも問題集を解いたほうが効果的なのと同じで、AIが選んだ良質な情報を活用することで効率的に学べます。AIを使っていると、「この質問をしたら、AIはこう答えるだろうな」と予測できるようになるタイミングが訪れるのですよね。これは、イラストにも言えることです。イラストであれ文章であれ、私たちは良質なものや選ばれたものを真似する過程で力を身に付けているのだと考えています。「自分で制作したほうが早い」と思えるレベルに達するまでは、どんどん活用したほうがいいと思います。

Q. 生成AIを活用しないことによるリスクはありますか?
藤吉:企画や制作に悩んだときに解決策が見つからず、業務効率が下がることが一番のリスクです。もちろん、「使わなければダメ」というほどのものではなく、時間をかければ解決できる場面もあります。ですが、労働時間の短縮や業務の効率化を考えると、使った方が確実にお得なので、活用しないのはもったいないですね。

Q. 教育機関では、生成AIをどのように教えるべきでしょうか?
藤吉:基本的な生成AIの活用ルールを明確にし、どの場面で使用を許可するかを設定し、伝える必要があると思います。例えば、「レポートにはChatGPTを使ってよいが、この課題では使わないでほしい」といった形で明確にすべきです。また、教員自身が生成AIを活用し、学生にとって有益な使い方を示すことが大切だと思います。今後さらに下の世代が、生成AIを使うのが当たり前の環境で入学してくることが予想されます。だからこそ、学生に対してどうアプローチするかよりも、むしろ今いる先生方に「学校としてこういうスタンスで進めていく」と明確に伝えることの方が重要でしょう。

Q. 生成AIの発展により、「教員が教えるべきこと」が減ることに対する不安を持つ方もいるかもしれません。それについて、ご意見をお聞かせいただけますか?
藤吉:自分の「好き」を追求すること。これは絶対に奪わせてはいけないものだと思っています。AIに決定権を持たせず、人間がそれをコントロールすることは、何があってもキープしてほしいです。「これは美しい」「これは素晴らしい」「これは企画に合っている」という判断自体は、人間が行うべきです。言語化の部分はAIに任せてもいいけれど、その言語化されたものをもとに、最終的な判断をするのは人間であるべきだと思います。
私は日本に生きていて、今30歳ですが、私の偏った学習や経験を通じた判断が、誰かに刺さることは必ずあると思っています。結局のところ、人間はそれぞれ偏った学習をしているわけで、その違う価値観を持つ人同士が打ち合わせをして、良いものを作っていく。そのプロセスの中に、生成AIが「もうひとりの参加者」として加わっただけなのですよね。だから、自分がディレクターという立場を崩さないことが重要です。「自分の好きなものを追求する力」「自分が良いと思ったものを選択する力」はAIには代替できません。AIは提案者として参加することはできますが、最終的に「何を選ぶか」は人間の仕事です。だからこそクリエイティブの教育では、「AIが作ったものに対して、なぜ自分はこれを良いと思ったのか」を言語化させることが重要になると思います。

Q. 生成AIと共存するために、クリエイターが意識すべきことはありますか?
藤吉:教育と同じになりますが、AIに決定権を持たせず、自分で最終的な決定をするのを意識することです。例えば、自分が知らなかったことや気づいていなかったことをAIが提示してくれたとき、「あ、これはそうだよな」と、自分の感性とぴったり合ったものを選び取る。そういう行為が、クリエイションの中では人間の役割として残り続けるのかもしれません。私たちが培ってきた感性や価値観に基づいて選択をすることで、AIは強力な補助ツールになりますが、主体は常に人間であるべき、ということは意識すべきだと感じます。

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