デジタルハリウッドアカデミー
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【第3回】クリエイターと生成AIのリアル|画像生成AIでクリエイターの価値は下がる?

2月21日作成
はじめに
デジタルハリウッドアカデミーでは、デジタルハリウッド大学(院)の教員の生成AI活用事例や、学生の活用事例を紹介してきました。
今回は、デジタルハリウッド卒業生、デジタルハリウッド大学教員、映像クリエイターという様々な肩書を持つ大島ダヴィッドさんの生成AI活用法をインタビューしました。生成AI時代のクリエイターの価値が下がるのか?等のクリエイターにまつわるリアルな実情を率直にご回答いただいております。最後までお読みくださいませ。

普段どのような活動をされているのか教えていただけますか?
大きく分けて2つあります。1つは、映像クリエイター活動です。デジタルハリウッドを卒業してから15年間、フリーランスとして映像制作や写真撮影をしてきました。2つ目は講師業です。学校教育機関で、Premiere ProやAfterEffectsなどの動画ソフトを教えています。

仕事にて生成AIをどのように活用していますか?
1年半ほど前から、Photoshopの生成AI機能「Firefly」を使い始めました。
写真撮影をすると、撮影スポットに他の車や人物が映り込む場合があります。これまではスタンプツールで地道に写真を加工していましたが、Fireflyを使えば1枚の写真を加工する時間を10分の1に短縮できます。生成AIで作業時間が大幅に短縮された分、クリエイティブな部分に力を注げるようになったのでクオリティの高い作品を早く納品できます。
また、Fireflyで新しい表現や加工を行っています。たとえば、普通のディーラーショップの駐車場で撮影したスナップ写真を高級マンションで撮影したような風景に加工し、理想的なシチュエーションに仕上げています。

仕事で生成AIをかなり活用していらっしゃるんですね。
生成AIの面白いところは、人間が考えもしなかった斬新なアイデアやカオス的なデザインが出てくることで、新たなクリエイティブが生まれるところです。私にとって生成AIとは、「一緒に仕事をしてくれるパートナー」ですね。
ダヴィッド先生は生成AIに肯定的ですが、生成AIに否定的なクリエイターも多いと思いますが、いかがでしょうか?
私の知人にも、生成AIに対して否定的なカメラマンがいます。ライティングやシーン作りに時間をかけ、シャッターを押すことにカメラマンとしての意義を見出してきたような方にとっては、生成AIで簡単に加工することに抵抗を感じるようです。
もちろん、アート的な写真は、生成AIに頼らずこだわることも重要だと思います。しかし、SNS向けの写真など短期間で大量に作らなくてはいけないものに関しては、1つ1つに多くの時間をかけられません。手を抜きたくはないものの1枚1枚に膨大な時間をかけられない場面では、生成AIのサポートが役立つと思います。

仕事で生成AIを活用する上で課題に感じることはありますか?
私は仕事で映像作品を作ることもありますが、映像作品では、主人公の姿がシーンごとに変わってしまったら困りますよね。でも、生成AIではその姿をずっと同じに保つのが難しいんです。生成AIで1つのカットやワンシーンを作るのは、誰でも簡単にできるんですけどね。
そもそも、静止画であっても画像生成AIで同じキャラクターを再現・生成し続けるのも難しいです。私は個人活動として「Project Aurora」という活動を行っています。MidJourneyを用いて「オーロラ」という女の子を生成しInstagramに投稿をしています。ただ、プロンプトを使いまわしただけでは、全く同じ雰囲気やビジュアルを出すのは難しいのが現状です。

オーロラちゃん。似た雰囲気を出すために試行錯誤を重ねたようです。

また、画像生成AIは具体的にどのようなデータを学習しているのかが不透明な事がほとんどです。これは、使用する側にとっては倫理的な懸念が残りますよね。

学習データの透明性は重要なのですね。
ルールを厳しくしすぎた結果、生成AIがありきたりな絵しか出さない世界になるのはどうかと思いますが、学習データの透明性を確保することは、今後のAI技術が社会的に受容されるために欠かせない要素となると思います。
絵を描いたことがない人がMidJourneyを使うと、簡単に可愛いキャラクターが生成できるので感動すると思います。ただし「MidJourneyがどのような学習データを用いているのか?」と疑問を持ち、MidJourneyのメカニズムを理解するのも大事でしょう。
学生が適切に生成AIを使えるように、教育機関は生成AIを使う際のガイドラインや、学習データの取り扱い、著作権に関するモラルやルールを伝える必要があると感じます。

画像生成AIで作ったクリエイティブが増えていますが、クリエイターの価値は下がってしまうのでしょうか?
自分が何時間もかけて描いたキャラクターを、生成AIがたった数秒で大量生産したら、自分の価値や存在意義に疑問を感じるのはごもっともだと思います。しかし、画像生成AIで作られた絵は、クリエイターの絵には勝てないと思います。これはブランドのコピー品と同じような状況といえるでしょう。
ブランド品を例にすると、本物のブランドバッグが欲しい人は本物を買います。しかし、オリジナルと違いが分からないという理由から、安いコピー品を選ぶ人もいます。とはいえ、偽物を購入するのは違法ですし、見つかれば逮捕される可能性もあります。
生成AIでも同じような未来が待っているような気がしています。

なるほど。今まで技術を磨いてきたクリエイターは自信を持って良さそうですね。
今後、消費者は2種類に分かれるのではないかと思います。ひとつは「『AIで十分』と考える消費者」、もうひとつは「クリエイターが作ったという価値を重視する消費者」です。
今後は大量生産が求められるコンテンツは、生成AIによって効率的に作られると思います。一方で、「私はAIを使っていません」という価値を掲げたコンテンツを選ぶ消費者も出てくるでしょう。つまり、AIが普及した社会だからこそ、人間が心を込めて作るものに特別な価値が付くという文化が形成されるかもしれません。

生成AIの台頭によって、クリエイターの仕事は無くなるのでしょうか?
すでに今の段階で仕事が減少したり、業界から離れたりしているクリエイターやカメラマンの話はよく聞きますし、今後もその流れはますます加速するでしょう。
とはいえ、現時点で実写映像の仕事や動画クリエイターの仕事が生成AIに”完全に”取って代わられることは無いと思います。AIで生成した映像や作品は、一見するとクリエイター感じますが、AIは完璧すぎてしまうんですよね。なので、人間の微妙な感情や心の機微を表現するのは難しい部分があります。
ただし、背景だけを生成AIで生成するなど、他のクリエイティブ要素と組み合わせるような使い方であれば、現時点でも十分活用が可能な現状に置かれていることは認識すべきです。

そうなると、クリエイティブ業界が生成AIを使うのはマストになるということでしょうか?
はい、間違いなくマストだと思います。たとえば、Photoshopに搭載されているFireflyや、マジック消しゴムのようなツールは、時間短縮や作業効率の向上に非常に役立ちます。こういったAI機能は、Adobeが公式に導入しているものなので安心して使えますし、煩雑で面倒な作業をAIに任せることでクリエイティブの質を向上させることができます。
生成AI技術とはデジタルカメラのオートマモードのようなものだと思います。ピントやISOなどを自分で考えなくても、カメラが自動で調整してくれるので、シャッターを押すだけで成功する写真が撮れますよね。生成AIもこれと似ていると思います。

生成AI時代に生きるクリエイターへのメッセージをお願いします。
とにかく生成AIを活用し、生成AIと一緒に進化する必要があると思います。
生成AI時代とは、カメラが発明された時代と同じような革命的な時代なんです。カメラが発売された当時、オイルペイントで自画像を描いていた人たちは、写真が発明されたらどうなるんだろう?と不安になったはずでしょう。しかし、だからといってそのオイルペイントの自画像が完全になくなったわけではありませんし、むしろ、写真よりもオイルペイントに価値を感じる人もいるわけです。AIで作ったからといって「悪い」「価値がない」と言うのは違いますが、今までのクリエイティブの価値が無くなるわけではないと意識したうえで、生成AIを活用していきましょう。

画像生成AIを教育現場に導入する際に意識すべきことはありますか?
「AIを使ってクリエイティブなことを試すのはいいけれど、それは自分が作ったものではないと自覚してほしい」 「AIは自分が指示した通り、セッティングした通りに動いてくれるアシスタント」みたいな存在だと考えれば良いと思います。アウトプットされた作品はプロンプトやノードの設定の結果です。例えるのならば、現場のディレクターをしているイメージでしょうか。
私自身もプロンプトなどを使って「オーロラ」を生成しますが、理想の「オーロラ」のビジュアルを出せるのは自分のイメージに近い結果を出すために生成AIを教育(チューニング)したからです。したがって「私がオーロラを作った・描いた」という意識は持っていません。上手く支持を出して、その通りにAIが動いてくれただけです。ここから、AIで作ったものは、ちゃんと「AIで作りました」と言わなければならないと思います。
たしかに、AIは間違いなく驚異的な力をもたらしました。誰もがアーティストになれますし、誰もが何かを作れる時代が到来したのです。だからこそ、クリエイターが生成AIを使う際には、生成AIで出力した画像に人間が手を加えることでクリエイティブを完成させる必要があります。生成AIは「パートナー」のような存在だと認識してほしいです。

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