デジタルハリウッドアカデミー
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【実施レポート】生成AI活用の世界線~デジタルクリエイター視点~

2025年2月25日作成
はじめに
デジタルハリウッドアカデミーでは2025年1月21日(火)15時~16時、AIアーティストの小泉薫央氏をお招きしセミナー「生成AI活用の世界線~デジタルクリエイター視点~」を実施し、学校現場での生成AI活用を推進していくために、【デジタルものづくり】【デジタルを活用した探究的な学び】の視点から活用の先端事例について解説しました。人間の能力の拡張というメリットと、考えられるデメリットへの対策の両面に触れてまいりました。
本記事は当セミナーの文字起こしです。学校現場での生成AI活用を考えるきっかけにしていただければ幸いです。

Q: 自己紹介をお願いできますか?
小泉薫央と申します。私はデジタルハリウッド大学/大学院を卒業後、10年ほどCGで爆発や煙、血しぶきや水などのエフェクトを作ってきました。現在は、株式会社SUPER PRIMEのAIアーティストとして活動しています。

エフェクトアーティストとして、ソニック・ザ・ムービー、バイオハザード:ヴェンデッタ、ペーパーマリオRPGなど、ゲーム・映画作品のエフェクトを多く手掛けてきた小泉さん。

Q: 小泉さんがCG業界を志したきっかけを教えてくれますか?
私は小さい頃からSF作品やゲーム、パソコンが大好きでした。そこからCGなどのテクノロジーにも興味を持つようになり、CGを学べるデジタルハリウッド大学に進学しました。卒業後はエフェクトアーティストとしてCG業界に入り、さまざまな作品に携わってきました。私は『メタルギアソリッド』というゲーム作品が好きなのですが、ありがたいことに『メタルギアソリッドV』の制作にも関わることができました。

Q: 小泉さんがAIアーティストを目指したきっかけを教えてくれますか?
2014年に「DeepDream」という画像生成AI技術を見たことが最初のきっかけですね。当時はCGの仕事をしていましたが、DeepDreamで「悪夢のような画像」がAIによって生成されたことに衝撃を受け、生成AIへの興味が一気に膨らみました。

2021年には「VQGAN+CLIP」や「DALL-E」といった画像生成AIを使うようになりましたが、その中で、適切なデータセットと学習が重要だと実感しました。そこで私は自らデータセットを作成し、独自のAIモデルを活用して画像生成をするようになりました。
2023年に入ってからはAIを活用しつつもディレクションスキルやプロデューサー的な視点を持つことが重要になると考えました。そこで、エフェクトのスペシャリストからAIアーティストに転向しました。

Q: なぜデータセットと学習が必要なのでしょうか?
AIがその画像とはどういったものかを理解するためには、大量のデータセットを学習する必要があるからです。データセットとは、画像とテキスト情報をセットにしたものです。このデータセットを何億枚も学習することで、生成AIは画像を作る能力を身につけます。
ただし、有名な画像生成AIのデータセットには著作権を侵害した画像やポルノ画像が混在しているケースもあり、グレーな部分も多いのが現状です。現状、ケースによっては日本の法律上では学習のために著作物を使用することは問題ないのですが(※2)、モラルの観点から、独自のデータセットを学習させたAIモデルを開発する必要があると考えました。

(※2)2025年1月時点

Q: 「独自のデータセット」というのは、小泉さんオリジナルのデータセットということでしょうか?
そうですね。CGアーティスト時代に制作したエフェクト用の素材や幼少期の自分のアルバムをAIモデルに学習させました。現在約530万枚ほどを学習させていますが、まだまだ足りないですね。

Q: 仕事でどのように生成AIを活用していますか?
いくつかご紹介します。
まず、Webtoon(ウェブトゥーン)という縦読み漫画をAI生成するプロジェクトです。
クライアントがキャラクター設定やネーム(ストーリーの構成)を作成し、それに対して自分が3Dのアバターを制作します。そのアバターを学習元にしてAIでキャラクターを生成します。そして、AIが生成した画像をレタッチして、漫画のコマ割りに仕上げていくという流れです。このプロジェクトは学習漫画として企業のコンプライアンス研修などで使用される教材なので、個々の作家性があまり強く求められません。そこで、生成AIを活用した効率的な漫画作成が特に効果的でした。
また、POPやパッケージデザインのカンプイメージを作成するプロジェクトにも携わっていました。カンプイメージとは、実際にモデルを使って撮影を行う前の段階で「こういうイメージで撮影したい」というビジュアルを作成するものです。カンプイメージの作成だけでも、かなりの工数がかかります。そこで、人物や商品、スケッチや背景を学習元にしてカンプイメージを作成する生成AIのシステムを開発し、効率化させました。発売前の商品情報などの機密データを扱うため、インターネットに接続しない環境でも使える生成AIシステムとなっています。
このほか、商店街のイベントポスター制作も手掛けています。自由が丘のイベントポスターでは、イベントのテーマに合わせて画像生成AIを用いて複数のバリエーションを制作しました。

金沢の九谷焼という伝統工芸に関連するプロジェクトも担当しました。このプロジェクトでは、伝統文化とAIをどのように融合・継承させるかがテーマになっていました。そこで、過去の九谷焼における配色パターンや作品を元に生成AIでデザイン案を作成しました。最終的にはAIが生成した案をもとに、職人が実際の九谷焼を制作しました。

Q: 画像生成AIについては賛否両論ありますが、トラブルなく生成AIを活用して仕事をするためにどのような取り組みをしていますか?
クライアントの多くは「AIを活用したいけれど、どう活用すればいいかわからない」「データセットや著作権に問題はないのか?」といった不安を抱えています。そこで、案件を頂く前に必ず「生成AIの歴史」「AIツールやサービスのメリットデメリット」「著作権やモラル」などを説明し、AI活用をポジティブに受け入れていただけるように心がけています。

Q: 生成AIを活用したことで仕事内容や単価に変化はありますか?
生成AIによって、アイデア出しのスピードが向上しました。ただし、現時点では単価が大きく下がることはないと考えています。最終的にクライアントへ納品する際は、レタッチなど人間による修正が必須だからです。とはいえ、AIの精度はどんどん向上しているため、今後は「どのように付加価値をつけていくか」が重要になってくると思います。

Q: 今後生成AIを活用していくことは必須になっていくのでしょうか?
マストでしょう。というより、すでにMicrosoftやGoogle、Adobeといったビッグテック企業の製品にも生成AI機能が組み込まれています。意識しなくても日常のあらゆる場面でAIが使用される状況になっていくと思います。

Q: 今の高校生は何を学ぶべきでしょうか?
個人的には一度自分でAIを作ってみてほしいです。「データセットを用意し、それをAIモデルに学習をさせ、生成されるものを確認する」。ハイクオリティなものを作る必要はありません。このプロセスを体験することで、AIへの理解を深めて欲しいです。
また、「独学していく力」も重要です。実は私は生成AIについて、誰かに学校で教わったわけでも特別な指導を受けたわけでもありません。自分で情報を集め、試行錯誤してきました。この「独学していく力」は、今後ますます重要になるので、ツールを駆使して必要な情報を調べる習慣をつけてほしいです。

Q: 「独学していく力」を身に付けるために必要なことはありますか?
情報を正しく取捨選択する「リテラシー」は非常に重要だと思います。私は、ネットで得た情報のソースを必ず確認し、その情報源がどれかを見極めることを大切にしています。ChatGPTなどで調べることもできますが、その回答だけを鵜呑みにしてはいけません。ChatGPTから得た情報をさらに自分で深掘りし、納得した上で知識を取り入れることが大切だと思います。

Q: 独学の際にオススメの教材はありますか?
AI生成について議論や研究をしている方のSNSコミュニティに参加することで、最新の情報を得られますよ。YouTubeも有効な学習ツールです。YouTubeの情報を実際に試し、技術的に信頼できると判断したものを吸収すると良いと思います。ただし先ほども言いましたが、得られた情報は自分で深堀りし、納得することもセットで行ってほしいです。

Q: 生成AIを避けてしまう方々がいることについて、小泉さんはどうお考えですか?
AIを嫌う理由や避けてしまう気持ちはとてもよく分かります。私自身も正直、AI、特に画像生成AIに初めて触れた時に「本当に大丈夫なのか?」「これがどんどん進化していったらどうなるんだろう?」と不安になりました。AIを使用した作品を「自分の作品」とするのにも葛藤がありましたし、データセットにグレーな部分が多いことにも納得できませんでした。
そこで「ならば、自分自身で1からデータセットを作ろう」という決断に至り、自分のパーソナルな情報を学習した独自のAIモデルを作成しました。このAIモデルには「HAL」と名付け、一緒に作品を作るパートナーだとポジティブに捉えています。
AIを嫌い、避けてしまう気持ちは人間として大切な感覚だと思います。しかし、その感覚がAIに向き合うきっかけにもなると思います。自分がAIを嫌う理由を考えることは、AIをポジティブに受け入れるための重要なヒントになると思います。そして、その気持ちに向き合い、「どうやって納得していくか」を考えることが大切だと思います。

Q: 生成AIに関して、教員はどのようなサポートをすると良いでしょうか?
AIに対して抵抗感を持つ人がいるのは当然なので、生成AIの活用を強制する必要はないと思います。しかし生徒や学生に「こういうアプローチもあるよ」「こういう選択肢もあるよ」という形で、さまざまな方法を提案をするのは重要です。生成AIを避けられない状況になりつつあるので「どう自分自身が受け入れるか」を一緒に考えることも重要でしょう。

Q: 生成AIについて専門的な知識を持つ先生がいない場合、学校としてどのように生徒の学びをサポートすれば良いと思いますか?
「学び方を教える」のが良いと思います。具体的な検索方法や、信頼できる教材の見つけ方を教えることで、生徒が自分で学び始めるきっかけを作ることができます。
実際、私もデジタルハリウッド大学に在籍した頃にはエフェクトを専門的に教えてくれる先生がいなかったので、YouTubeなどの無料の教材を使って自力で学びました。

Q: YouTubeにはさまざまなチュートリアル動画がありますが、「良い教材」と「そうでない教材」をどのように見分ければ良いですか?
「こういうのは良くない」という基準は教えられますが、まずは自分で経験していただきたいです。「この動画、全然教えてくれないじゃん!」みたいな経験も実は重要です。そうした失敗を通じて「こういうサムネイルの動画はちょっと信用できないかも」といった判断基準が自然に蓄積されていくからです。失敗を避けるために効率的な学び方を教えることもできますが、一度は経験することで、情報を見極める力は鋭くなります。
ちなみに、英語の勉強も大切です。私も元々は英語があまり得意ではなかったのですが、チュートリアルや最新の学習リソースは圧倒的に海外発信のものが多いです。そのため、英語の情報にアクセスできるかどうかが、学びのスピードや質に直結してしまいます。自分の専門分野であるCGやAIに関しては、日本国内だけでなく、海外も商売や活動の対象になってきます。こういった分野に興味のある方は、ぜひ英語を勉強すると良いと思います。

Q: AIに頼りすぎると人間の思考力や想像性が抵抗するのではないかと心配になりますが、小泉さんのご意見をお聞かせ頂けますか?
AIには事実とは異なる情報を出力したり、突拍子もない結果を生成したりする「ハルシネーション」という現象が起きます。ハルシネーションは画像生成AIでも発生するのですが、個人的にはとても面白いです。自分で作品を作り続けていると、どうしても「自分が意図したもの」しか作れなくなるので、発想の幅が狭くなることもあります。そんな時にAIを使うと、自分の想像を超えるアイデアが生まれて創造性が広がるからです。
たしかに、AIが出力した情報を精査せずに鵜呑みにすると思考力や創造性が低下するかもしれません。しかしそれを逆手に取って情報を深掘りしていけば、思考力や創造性を拡張できると思っています。AIは単なるツールではなく、新しい視点や発想のパートナーとして活用できます。AIにヒントをもらうことで、自分の考えをさらに深めたり、新しいアイデアに気づけると思います。

Q: デジタルものづくりに興味がある方に向けて、一歩を踏み出すためのメッセージを頂けますか?
「まずは一つの分野を深掘りすること」が大切だと思います。私はCGの中でも特に「エフェクト」を深掘りしました。しかし、CGを学ぶだけでは足りないと感じ、デザインやプログラミングにも興味を持つようになりました。このように、一つの分野を深く掘り下げることで、結果的に学びの範囲が自然に広がっていきます。
最初からあれこれ手を広げてしまうと、「何をやればいいのか分からない」と迷ってしまうことが多いと思います。だからこそ、自分の好きなジャンルや目指したい職業からスタートし、そこを深掘りするとモチベーションも維持して効率的に学べるのではないでしょうか。

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