【第7弾】生成AI×教育実践事例インタビュー|生成AIを使いこなすために必要なスキルとは
2025年1月9日作成
はじめに
デジタルハリウッドでは、生成AIに関するノウハウを皆様にシェアしております。今回は「頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方」を執筆した橋本大也教授に、授業内での生成AI活用事例や学生が生成AIを使いこなすためのアドバイスをインタビューしました。
橋本大也教授プロフィール
本学メディアライブラリー館長。ビッグデータと人工知能の技術ベンチャー企業データセクション株式会社の創業者。同社を上場させた後、顧問に就任し、教育者、事業家に転進。教育とITの領域でイノベーションを追求している。著書に「データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人」(SB 新書)「情報力」(翔泳社)など。書評ブログを10年間執筆しており、書評集として「情報考学 Web時代の羅針盤 213 冊」(主婦と生活社) がある。多摩大学大学院客員教授。早稲田情報技術研究所取締役。
Q: 橋本先生の授業「リサーチ基礎」「プランニング基礎」の概要を教えていただけますか?
コンテンツビジネスの企画書を書く方法を学ぶ授業です。その中では、情報の収集、整理、分析、活用の方法を学びます。
Q: 授業で生成AIをどのように活用していますか?
生成AIを使ってアイデアを出す方法や検索方法、プロンプトの書き方を教えています。その際には、生成AIは間違うこともあるので「間違えた情報を出力していないかちゃんと調べよう」ということもセットで教えています。
Q: 生成AIは検索にも活用できるのですね!
今まで、初回の授業ではGoogleの使い方や検索方法を教えていました。しかし今では「Search GPT」や「Perplexity」などの生成AIを搭載した検索エンジンが登場したことにより、Google検索などの検索エンジンとの違いが無くなってきています。今年はまだGoogle検索エンジンの効果的な使い方を教えていますが、いずれはそれも教えなくなると思います。
Q: そもそも生成AIを授業に組み込もうと思った理由は何かあったのでしょうか?
生成AIは、データ分析や思考補助のための画期的なツールだからです。データ分析において使わない、という選択肢は考えられないです。生活やリサーチのあり方自体が大きく変わるほどの影響力があります。
Q: 授業に生成AIを組み込んだことで、どのような成果が挙がりましたか?
学生が提出する企画書の質が向上しました。
私は授業にて「自分が就職したい会社」を想定し、その会社の企画書を作成する課題を出しています。学生はビジネスやマーケティングの知識が不足しているため、言葉遣いやキーワードが拙くなりがちです。そのような企画書を会社に提出した場合、経営陣は「学生は本当に分かっていないな」と思うでしょう。
それらを改善するには、ChatGPTに「SWOT分析(※1)や4P/4C(※1)のフレームワークやキーワードを盛り込んだ分析をして」と指示します。すると、実際のビジネスで使用されるキーワードや概念を含んだ質の高い企画書を作れます。
この方法を学生に教えたことで、学生が提出する企画書の質が良くなりました。
(※1)マーケティング用語
Q: ハルシネーション(※2)のリスクは無いのでしょうか?
ないとは言い切れません。しかし、想定した『自分が就職したい会社』が一般的に知られているような大企業の場合は、生成AIの分析結果はほとんど正しい内容です。また、インターネットで調べて作成したものと大差ないこともあります。
(※2)事実に基づかない情報をAIが生成する現象
Q: 授業に生成AIを組み込んだことで、どのような課題が挙がりましたか?
レポートを作るときに、生成AIで出てきた回答を体裁だけ整えた質の低いものを提出する学生がいることです。私は内容が良ければ生成AIを使っても良いと思っています。しかし、学生の中には生成AIを適切に使わず質の低いものを提出してきます。私は今まで「授業に出席してレポートを提出すれば最低限の単位は与える」というスタンスで授業を行ってきましたが、質の低いものを出す学生をどのように評価をするかは検討中です。
Q: 生成AIで課題を生成する学生さんについての対応方法は他の学校機関でも議論になっていますが、橋本先生のご見解をお聞かせいただけますか?
生成AIで課題を生成したとしても、内容が良ければ問題ないのではないでしょうか。昔、手書きで行っていた作業がワープロを使うようになったのと同じように、生成AIを使いこなして良い成果を出すこと自体が、学生自身の能力の一つとなるのです。逆に、学生が生成AIを課題に使っているかどうかを見破れなかった場合、それは学生が適切に生成AIを活用できている証拠だと思います。
Q: アウトプットの内容が良ければ問題ないのですね。
再現性も重要ですね。生成AIは間違ったことも出力するので、学生自身がちゃんとした知識を持っていないと、適切なアウトプットを出すことは難しいです。学生が生成AIを使いながらも毎回安定して完璧なアウトプットを出すのであれば、それは学生の本当の実力なんだと思います。
Q: 生成AIを使いこなすために求められることはなんですか?
2つあります。1つ目は生成AIで出力されたものを修正する力です。たとえば画像生成AIで出力したものは不自然な箇所が多く、そのままでは使えません。そこで、そういった箇所を修正し、完成した作品に仕上げる力が求められます。
また、質的な知識も重要です。生成AIを使いこなすには、一定以上の能力、もしくは生成AIを上回る能力が必要です。そうしないと生成AIが間違いを出力したかどうかを指摘できないからです。今年の学生たちはこのことに気づき始めていて、生成AIを単なるチートツールと捉えていないように思えます。
Q: 今後学生に対してどのような生成AIの使い方を教えていきたいと考えていますか?
生成AIを「思考のパートナー」として活用する方法を教えたいと考えています。
実は、私は1年間で3冊の本を執筆しました。本を執筆する過程では、書くべき内容が決まらず作業が何時間、何日、何週間と滞るときがありました。しかし、生成AIと壁打ちをする過程で、自分では思いつかなかった視点を得たり、新しい内容を書くためのヒントを得ました。この経験から、生成AIはブレイクスルーをもたらす「思考のパートナー」として使いこなす方法を教えていきたいです。
Q: 具体的なエピソードをお聞かせいただけますか?
思考法についての書籍を執筆した時に、情報処理のワークフローについても取り上げる必要がありました。最初は情報処理のワークフローの章立てとして「情報の収集」「情報の整理」「情報の分析」を想定していました。しかし、ほかにもう一つワークフローが必要になったため、ChatGPTに情報処理のワークフローとして適切な語彙を質問しました。
そこで、生成AIに情報処理のワークフローとして適切な語彙を20個を出してもらった上で語彙を図表やマインドマップで整理してもらいました。
最初は、情報処理のワークフローに組み込むための適切な語彙を探していました。しかし、生成AIと壁打ちをしていくうちに新たな視点からのアイデアや事例が浮かんだのです。そして、自分が今何を書くべきかが明確になった結果、執筆がスムーズになりました。
Q: リアルなエピソードですね…!
生成AIを思考のパートナーとして使えるのは、私に元々の知識や能力があるからなんです。プロでなければ、同じような成果を得ることは難しいでしょう。生成AIとの「壁打ち」を通じて双方の能力を引き出し合うことで、より深い洞察や新たなアイデアが生まれるのです。なので、生成AIが台頭する時代ではありますが、これまで通りの知識や能力を持っておくことは重要です。
Q: 他の専門学校や、まだ生成AIの活用に追いついていない方々に向けて、何かアドバイスがあれば教えていただけますか?
私は今プロンプトエンジニアリング(※3)を教えていますが、プロンプトエンジニアリング自体は本質的なスキルではありません。ChatGPTのモデルがアップデートされると、プロンプトの作り方も変わるからです。
そこで重要なのは「とにかく使い続けて生成AIを内面化すること」なんです。とにかく生成AIを繰り返し使っていくと、「こんな感じで質問すれば良いんだな」「この質問の仕方だと生成AIは間違いを出力するな」といったAIの特性が感覚的に理解できるようになります。
生成AIは「押すと結果が出る」ような単純なツールではないんです。むしろ、経験を重ねて熟練することで精度が向上するアナログ的な側面の強いツールなんです。たとえば、大工道具セットは、初心者には扱いが難しいけれども、プロは自在に使いこなしてより精密な作業を行えますよね。生成AIは大工道具セットのように、熟練可能なものだと思います。なので、皆さんにはとにかく生成AIを使ってほしいです。
(※3)AIに正確で効果的な応答を引き出すために最適な指示(プロンプト)を設計する技術や工夫