【第3弾】ChatGPT×教育実践事例インタビュー|「教員不要論」とどう向き合うか
2024年7月8日作成
はじめに
デジタルハリウッド大学では、生成AIを活用した教育実践のインタビューをしております。前回(https://academy.dhw.co.jp/knowledge/generativeai-interview-1/)、前々回(https://academy.dhw.co.jp/knowledge/generativeai-interview-2/)のインタビューに引き続き、今回は生成AI活用事例第3弾として、石川大樹特任准教授にインタビューをしました。
石川特任准教授プロフィール
拓殖大学外国語学部スペイン語学科卒業後、大手キー局にて報道編集・ストリーミング配信・番組制作を担当。2004年デジタルハリウッド株式会社入社以来、数多くの新規事業に携わる。 その経験を活かし、現在は映像教材や教育メディアを開発。またeラーニング教育手法、動画を活用した学ばせ方を研究している。
https://gs.dhw.ac.jp/faculty/hiroki-ishikawa/
Q: 石川先生が現在担当している「デジタル表現基礎」の授業について、概要を教えていただけますか?
A: 大学院生がWebデザインやプログラミングといったデジタルツールの使い方を身に着けるための授業です。ただし、授業は直接私が教えるのではなく、動画教材を通して使い方を学んでもらいます。多くの学生が働きながら通学しているため、教室で毎週基礎ツールの演習を行うのは困難ですので、動画教材を用いることで自分の空いている時間に学習できるように授業を設計しました。
また、ツールの使い方のみならず、能動的な学習のための方略を習得することを学習目標としています。そこで、週に一度、学習した部分の振り返りを振り返りシートに記入して提出し、その内容から学習の進行状況を評価します。
Q: 授業で生成AIをどのように活用していますか?
A: 授業ではChatGPTを活用し、学生に動画教材で分からない部分を質問しましょうと促しています。また、週に一度の振り返りシートには、ChatGPTが提示した回答も報告するよう伝えています。
たとえば、プログラミングの課題で「このコードを打ったがうまくいかない、どうしたらいいか」という問題や、特定の概念が分からない場合に、どう考えたら良いかをChatGPTに問い合わせます。そして、ChatGPTの回答と、回答通りに作業をしてみてどうだったかを振り返りシートに報告してもらっています。
講義で実際に用いているPowerPoint。Googleフォームを活用したChatGPTの振り返りを促す。
Q: ChatGPTを組み込むことにした経緯を教えてくれますか?
A: 学生からのフィードバックがきっかけでした。ある学生が「プログラミングで上手くいかないところをChatGPTに聞いて、試してみたらうまくいった」という振り返りがあったんです。そこで、ChatGPTが学習の際の問題解決の糸口を教える可能性があると考え、能動的な学習をサポートするツールとしての活用を決めました。
Q: 授業にChatGPTを組み込んだことで、どのような成果が上がりましたか?
A: 「まだ具体的に『これだ』という成果はありません。
しかし、プログラミング関連の質問に関しては、回答の精度が高い報告をよく見ますね。ChatGPTが正確な行動指示を返すため、問題解決に役立っています。明らかにプログラミング学習をする学生の負担は減少していると感じます。
Q: 授業にChatGPTを組み込んだことによる学生からのフィードバックはどのようなものでしたか?
A: 肯定的なものは少ないものの、否定的な反応もないという状況です。詳しいフィードバックはこれから収集する予定です。
Q: 授業でChatGPTを活用する際のデメリットはありますか?
A: 残念ながら、学生が安易にChatGPTに依存し、本来Web検索で詳細な記事を見つけるべき情報を問い合わせするケースも見られるようになってきました。本来、多様な意見を比較しながら自分に合った情報を取り入れることが大切なんですけどね。
Q: ChatGPTを使いこなせる学生とはどのような人ですか?
A: 論理的に考えられる人が上手く使いこなせると思います。論理的に考えるとは、問題の根本原因を探求できる人のことを指します。
また、要件定義がうまい人も上手く使いこなしていますね。たとえば「これをPython(プログラミング言語)で書いてください」と具体的に依頼することで、より正確な答えを得ることができます。また、プログラミングを学習する学生はプロンプトを綿密に書くことで、問題解決に役立つ回答を引き出しやすくしている印象です。
Q: 授業でChatGPTを活用する上で課題と感じる部分はありますか?
A: プログラミング以外の分野で学習している学生にChatGPTをどう上手く活用させるかです。
クリエイティブな分野、特にWebデザインや映像制作といったビジュアルクリエイティブ分野では、ChatGPTの活用が難しいと感じることがあります。プログラミングではエラーの要因が記述されていますが、ビジュアルクリエイティブの分野では画像の情報をChatGPTに解析させることはできませんから。また、ChatGPTは一般的な返答しか現状できないため、ビジュアルクリエイティブの成果を評価したり、その作品に至るまでの過程を評価できないという問題もあります。
そして、ChatGPTに依存することなく、Web検索などを通して自ら情報を調査し、多様な情報源を比較して最適な解を導き出す方法を学生に伝えられるようにしたいですね。
ChatGPTに向いていないものを説明する資料(授業内で実際に用いているもの)
Q: そのような課題に対して現在どのような取り組みをしていますか?
A: ChatGPTが最新の情報を持っていないことから生じる問題についても授業で取り上げた上で、検索エンジンを使うことも推奨しています。これにより、ChatGPTを使ったときに得られなかった答えがあっても、他の情報を手に入れることで解決策を見つけられるようになってもらいたいですね。また今後は、学生から出てきた過去のChatGPTの活用報告から良い例をピックアップし、どのようにAIを効果的に使えるかのガイドラインを整備する予定です。
Q: 今後、どのように授業で生成AIを使いたいですか?
A: ChatGPTを単なる質問ツールとして使うのではなく、より能動的な学習をもたらすツールとして活用したいですね。
ただし、どれだけ生成AIが能動的な学習をもたらしたとしても、教員の介在が必要になると思っています。
Q: なぜ「教員の介在」が必要だと思いますか?
A: 「人間対人間の関わり」が学生の学びには重要だと感じるからです。人間的な要素は、学生の心を動かし、より深い理解や学びに繋がると思うのです。
この授業での私の役割は、学生の振り返りシートの内容に対して個別にフィードバックすることなのですが、本当に大変な作業なんですよ。学生40人にフィードバックをするので、生成AIが代わりにやってくれないかな、と思うくらい(笑)。でも、多くの学生は、私から直接フィードバックを受けることがモチベーションになっているようで、「先生がフィードバックをくださるので頑張れます!」のような、感謝のフィードバックを貰えることがあるのです。
もちろん生成AIは便利ですが、そのフィードバックは味気ないことが多く、学習のモチベーション向上には繋がりにくいのではないかという仮説があります。そこで、AIを使ってある程度の事実を整理したり回答を得る一方で、最終的には教員が血の通った言葉でフィードバックを返すことが効果的だと思っています。
私たち人間は、関与することで心が動く瞬間があります。生身の教員がいることで、学生の心に響く学びの場が提供できるのではないでしょうか。
石川大樹特任教授
Q: 最後に、生成AIについて専門学校や大学の先生方へのメッセージはありますか?
A: とりわけChatGPTについては単なる情報提供ツールではなく、学生により深い知識の理解と批判的思考を促し能動的学習をもたらす一助となる存在だと思っています。
ただし、ChatGPTにも限界はあります。そこで、教育現場で活用する際はChatGPTから得られる利点を意識しつつも、教師の役割とどうバランスを取っていくのかを考えると良いかもしれません。
まとめ
今回はChatGPTを活用した授業実践の事例紹介をいたしました。
デジタルハリウッドアカデミーでは、本学で得られた生成AIのノウハウを活かしたFD/SD研修をご提供しております。
詳しくは、ぜひお問い合わせくださいませ。
https://academy.dhw.co.jp/contact/
執筆者
萩原ちはる(デジタルハリウッド株式会社 まなびメディア事業部)
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