デジタルハリウッドアカデミー
お問い合せ

【第11弾】生成AI×教育実践事例インタビュー|良い作品が“偶然できる”時代にこそデザイナーは必要?

2025年5月28日作成
デジタルハリウッドでは、大学・大学院の教員や卒業生による生成AI活用の最前線を紹介するインタビューをお届けしています。
第11弾となる今回は、サイバーエージェントでの実務経験を活かし、デジタルハリウッド大学大学院で「コンテンツデザインB」を担当する末永剛先生にお話を伺いました。
生成AIで“偶然”生まれた作品をどう捉え、そこにどう人間の創造性を重ねるか──。授業内での実践から、今後のクリエイター像に至るまで、AI時代のクリエイティブ教育の核心に迫ります。

末永剛特任准教授プロフィール
すえなが・ごう●東京藝術大学卒。日比野克彦氏に師事。在学中に企業プロモートやアートプロジェクトを経験し、卒業後ファッションやCM、映像、音楽、舞台の分野で横断的に活動しつつ、メディアアート作品を制作。2009年より映画美学校にて菊地成孔氏に師事。在学中に立ち上げた企画「BED-眠り人のための演奏会-」がTokyo Wonder Siteにて奨励賞(2011年)を受賞。2013年サイバーエージェント入社。2014年宣伝会議ARTSにて最優秀賞を受賞し、アートディレクターとしてブランド領域の広告クリエイティブを担当。(株)amana (旧 amana Design)との合弁会社(株)CaDesignを立ち上げ、取締役を5年勤める。
https://gs.dhw.ac.jp/faculty/visiting/go-suenaga

Q: 末永先生が現在担当している「コンテンツデザインB」について、概要を教えていただけますか?
デザインやアートディレクションを学び、新しい表現の可能性を探る授業です。今までは広告のアートディレクションやデザインに携わっていた私の経験を活かして、アイデアの考え方を概論から演習まで幅広く教えていました。しかし今年は授業のテーマを生成AIに大きくシフトさせました。最終的には生成AIを使った動画など、コンテンツの創出に取り組んでもらいました。

Q: 授業テーマを生成AIにシフトした背景はありますか?
2年前からサイバーエージェントの「AIクリエイティブ局」に移動し、生成AIの活用方法を研究してきましたが、生成AIは人間の発想を超えたアイデアを提示し作業効率を向上させるため、クリエイティブの可能性が大きく広がると思ったからです。
また、私が「素敵だな」と思う一流のデザイナーは、総じて生成AIに新しいツールとして肯定的に楽しみ、「これはどう使えるだろう?」と試していたところから、生成AIによってデザインやアートディレクションの手法が大きく変わる可能性を感じたからです。

Q: 授業では、どのような生成AIツールを使っていますか?
画像生成AIですとMidjourneyを使うことが多いです。ただ、DALL-EやImagen、Stable Diffusion、Adobe Fireflyを用いることもあります。動画生成AIも使っており、Runway Gen-3、Luma AI、Sora、Klingなども使っています。

Q: さまざまなツールを使っているんですね!
私は学生が使用する生成AIを指定しておらず、それぞれのプロジェクトに応じて選択し活用するよう指導をしています。ただし、どのツールにもメリットとリスクがあるので、デジタル庁が出しているガイドラインやツールの利用規約を理解し適切な判断をするように伝えています。また、生成AIを活用する際はどのシーンでAIを使うべきかを見極め、クリエイターとしての主体性を持つことが大切だという点も強調しています。

Q: どのような学生さんが生成AIの授業を履修していましたか?
シラバスには生成AIを扱うことが明確に記載されていたのもあり、生成AIというトレンドを意識して、それに対してアクションを起こしたいと考えている学生が多かったです。ただしその理由はさまざまで、自分のプロジェクトに活かしたいと考える学生もいれば、漠然とした不安感から「生成AIについて知っておかないといけない」と考える学生もいました。すでに広告デザインやアートディレクションに関わっていて、これからの仕事にどう活かせるかを学びたい学生もいました。

Q: 授業内で、学生さんはどのような課題を提出しましたか?
様々な課題がありましたが、画像だけでなく、動画、音楽、コピー生成などの生成も課題としました。最終課題は「自分の価値観や美的感覚を反映させること」をゴールに生成AIでミュージックビデオを作る課題を提示しました。
課題のクオリティについてですが、「素晴らしいな」という一言に尽きます。現在、動画生成AIでキャラクターを生成しても、それを長時間維持するのが難しいことから、動画生成AIの商業利用にはハードルがあるといわれています(※1)。しかし提出された作品の中には、AIならではの違和感のある動きや、キャラクターが維持されないデメリットを魅力として活かそうとするものがありました。時間の制約もある中で、試行錯誤しながら生成AIの力をうまく活用した課題が多かったように感じます。
(※1)参考:【第3回】クリエイターと生成AIのリアル|画像生成AIでクリエイターの価値は下がる?

Q: 学生さんのフィードバックはいかがでしたか?
授業後に回収したフィードバックシートを見る限り、概ね好評でした。「AIがここまで進んでいるとは思わなかった」「実際に試してみて、こんなに簡単に生成できることに驚いた」など、生成AIを実践的に学ぶことで、新しい発見があったという感想が見られました。

Q: 今後はどのような授業を展開していきたいですか?
生成AIのトレンドを常にキャッチし、新しい技術やサービスが出てきたらすぐに試して実践に取り入れたいです。特に現在は、生成AIの進化がすさまじいので、授業前日にリリースされたサービスがあれば、その場で学生に伝え、すぐに試すといったスピード感を意識していきたいです。

Q: ありがとうございます。ひろくデザイン業界について質問させてください。デザイナーの中には生成AIに批判的・忌避的な方もいらっしゃいますが、それに対してのご見解を教えていただけますか?
生成AIに興味がない人や、嫌悪感を持っている人を相手にするのは、正直なところ難しいです。無理に全員に受け入れさせようとすると、どうしてもテンションが下がってしまうし、逆に抵抗感を強めてしまう可能性もあります。
だからこそ、最初は興味がある人たちだけで小さなグループを作ることが大切だと思います。無理に全体に広げようとせず、まずは好きな人、興味がある人だけでまとまって、試行錯誤しながらトライ&エラーを繰り返す。インプットとアウトプットを積み重ねていくことで、少しずつ広がっていくんじゃないかと思います。
嫌いな食べ物を無理やり口に近づけても拒否反応が出るのと同じで、興味のある人たちだけで集まって試してみる方が健全だと感じます。とはいえ、今この段階で生成AIに触れている人と、そうでない人の間には、これからじわじわと差がついていくだろうなとも感じます。でも、そこはもう自己責任ですよね(笑)。
ただし、クリエイティブの道は色々あります。思い切ってクラフトワークの方向に進んで、手仕事だけで作品を作り上げる道を極めるという選択肢もあるし、生成AIを活用して新しいクリエイティブの形を模索する道もある。どちらを選ぶかは、それぞれの考え方次第だと思います。

Q: 努力をして腕を磨いてきたからこそ、生成AIが偶然良いものを作り出すことに対して複雑な感情を持つデザイナーもいるそうです。それについて、どのようにお考えですか?
AIで生成されたデザインが偶然良いものだったということは往々にしてあります。これによって自分たちが長年磨いてきたスキルや経験の価値が揺らぐように感じるかもしれませんが、AIで生成されたデザインをさらに洗練できるのはデザイナーだと思います。AIはデザインの本質を損なうものではなく 「デザインの精度を高めるための新しい手段」 として考えればAIを受け入れやすくなるのではないでしょうか。
そもそも、生成AIで何かを作るときも、単純にポンと出てくるものと、試行錯誤を重ねてようやく生まれるものではクオリティに明確な差が出ます。一発で偶然できるものは「これは手間かかってないな」とすぐに分かりますし、細かくプロンプトを調整しながら試行錯誤して作り込んでいくと、それ相応の苦労があります。そこで、偶然に見えるAIの裏側にも、それなりのプロセスがあることを理解すると、折り合いがつくと思います。

Q: デザイナーは生成AIにどのように向き合っていけば良いと思いますか?
AIは、0から1を生み出すのは苦手でも、2〜3くらいの状態のものを一気に80くらいまで引き上げるのは得意です。そこで、デザイナーはAIをクリエイティブの最初のフェーズを大幅に効率化させ、創作の幅を広げてくれる強力な補助ツールと捉えると良いと思います。
また、AIは98点のものを100点に仕上げるようなフィニッシュワークには向いていないので、最終的な仕上げにはやはり手作業や人間の感覚が必要です。加えてAIで偶然良いものができても、それを評価し、改善し、作品のレベルを引き上げるためには、デザイナーの経験や感性が求められます。
そこで、AIを「対立するもの」として捉えず、むしろ「デザインのプロセスを拡張するもの」として受け入れ、AIを「ツール」としてどう使うかを考えることが、デザイナーに求められると思います。

Q: AIをどのように導入すれば良いのか悩んでいる学校教員へのアドバイスをお願いします。
生成AIを活用したいが、導入のハードルを感じている学校や、啓蒙に苦労している現場もあるでしょう。
それに対する簡単な答えはないですが、いきなり完璧なカリキュラムを作ろうとせず、まずは「小さくても良いからとにかく試してみる」 ことが大事だと思います。画像生成AIなら Midjourney やAdobe Fireflyで簡単なビジュアルを作る。文章生成AIなら ChatGPTでシラバスを作る。動画生成AIなら Runwayで短いクリップを試す、といった具合です。実際にAIを使ってみれば「思ったよりも便利だし、クリエイティブな活用ができる」と気づくはずです。
また、AIを導入する目的を明確にすることも重要です。単に「流行っているから取り入れよう」ではなく、何のために使うのかを考えることで、より実践的なAI活用ができるようになると思います。
AIを適切に活用できる人が、これからのデザイン業界の中心になっていくはずです。そこで、学校教育機関でAIを導入し、AIとデザイナーの関係をよりポジティブな方向にしていくと良いと思います。

お問い合わせ・お申し込み

どのようなことでもお気軽にお問い合わせ下さい。
また、オンライン授業に関するセミナーや説明会も開催しております。ぜひご参加ください。

beCAMingオンライン説明会beCAMingオンライン説明会 リスキリング研修パッケージリスキリング研修パッケージ