【第10弾】生成AI×教育実践事例インタビュー|“AIを使いこなす学生”が選ばれる時代へ

2025年4月9日作成
デジタルハリウッドでは、大学・大学院の教員や卒業生による生成AI活用の最前線を紹介するインタビューをお届けしています。
第10弾となる今回は、サイバーエージェントでの実務経験を活かし、デジタルハリウッド大学大学院で「コンテンツデザインA」を担当する酒井英典先生にお話を伺いました。
教育実践例のみならず、産業界の視点に立つと「AIを使いこなす学生はどのように映るのか?」についてリアルな声を語っていただきました。
酒井英典特任准教授プロフィール
さかい・ひでのり●新卒で博報堂に入社。コピーライター兼CMプランナーとして、クルマや携帯キャリアのクリエイティブ制作を担当。同社を退社後、株式会社CIRCUSに在籍し、テレビCM枠の買付けを含むメディアプロデュースを経験。2013年よりサイバーエージェントで勤務。2015年10月よりオンラインビデオ総研所長。WEB動画広告の新商品開発・運用・制作を幅広く担当。「ローテレ配信」「モーメント配信」「アジャイル型配信モデル」などを開発。現在はメディアコンサル部門の経営管理を幅広く担当している。
https://gs.dhw.ac.jp/faculty/visiting/hidenori-sakai
Q: 酒井先生が担当している授業の概要と、その中でAIをどのように活用しているか教えてください。
私が担当している授業「コンテンツデザインA」の前半では、コピーライティングを通してアイデアの幅を広げることを学び、後半はプレゼンテーションツールを使い、伝えたいことをシンプルにまとめる技術を学びます。どちらもいずれAIによって代替されそうな領域ではありますが、だからこそ積極的に活用していくことを意識的に伝えるようにしています。
前半のコピーライティングの課題を例に挙げると、「ビールがもっと売れるためのアイデアを考えましょう」といった課題に対して、みんなで案を出し共有をしていくのですが、昨年からルールを変更し、AIにサポートしてもらいながらアイデアを出す方法を取り入れました。もちろん、AIを使わなくても構いませんが、活用することでより多くのアイデアを生み出すことができるため、ChatGPTなどの生成AIツールを積極的に活用する形を推奨しています。
Q: AIを授業に導入されたのは、どのような背景や目的があったのでしょうか?
デジタルハリウッドの学生や院生は、クリエイティブな分野に進みたいと考えている方が多く、コンセプトを考えるのが好きで、一つの案を出して満足してしまうことが多い傾向があります。コピーライティングにおいては、質の高い一つの案も重要ですが、それと同じくらい、多くのアイデアやコンセプトの切り口を出すことも重要です。
そこで、AIをアイデア出しのアシスタントとして活用することで、学生自身にはない発想を提案してもらい、アイデアの量を増やせないかと考えました。AIを完全に頼るのではなく、あくまで補助的な役割として使うことで、より多くの発想を引き出すことを期待しています。このあたりは、同じデジタルハリウッド教員の中橋さんも触れられているんじゃないですか。
⇒関連リンク:【第8弾】生成AI×教育実践事例インタビュー|実務で使いこなすAIスキルと人にしかできない仕事の価値
https://academy.dhw.co.jp/knowledge/generativeai-interview-9/
Q: 実際にAIを活用してみて、学生の皆さんの反応はいかがでしたか?
少なくとも、AIを使うことに対する強い抵抗感はなかったと感じています。ただ、私の想像ですが、全員が積極的にAIを活用していたわけではなく、一部の学生が積極的に使い、他の学生が「そんな使い方もあるのか、すごいな」と見ているような状況だったのではないでしょうか。それでも学生にとって良い刺激になったのではないでしょうか。多くの学生が「自分も使えるようにならなきゃ」という感覚を持っていたと思います。
Q: AIを活用することで、学生の課題の質や量に変化はありましたか?
質が上がったかで言うと……正直、まだよく分からないですね。そこまで大きく変わった感じはしません。ただ、私が狙っていた「アイデアの数を出してほしい」という点に関しては、AIがうまく補助してくれているようです。後半のプレゼンテーションの授業に関しては、まだAIの活用に本格的に取り組めていないため、今後はその領域でももっと積極的に使っていきたいと考えています。
Q: 酒井先生ご自身は、普段の業務でどのようにAIを活用されていますか?
私自身も業務で頻繁にAIを活用しています。具体的には、MTGの文字起こしを行ったり、AIを使って議事録を作成しています。
また、社内キャンペーンのロゴをAIに作ってもらうこともあります。
Q: 産業界の視点から見て、「AIを使いこなせる学生」はどのように評価されるでしょうか? 「生成AIを使う学生はずる賢くて、かえって就職で不利になるのでは?」と考える教育関係者もいるようですが…
もし、私の所属しているサイバーエージェントに「生成AIをバリバリ使えます!」という学生が来たら、間違いなく歓迎されます。AIを使えることが前提になっている環境なので、プラスに働くことはあってもマイナスにはならないでしょう。
ただし、「適切な使い方を理解していること」は大前提です。例えば、機密情報をAIにアップロードしないといった基本的なリテラシーはしっかり持っていてほしいと思います。その前提さえ守れるのであれば、「AIを使いこなせる学生」は間違いなく歓迎される存在です。もちろん、「サボるため」にAIを使うのは本末転倒ですが、効率化のために活用し、それを周りに還元し、みんなが良くなる方向に動いてくれるのであれば、むしろ積極的に使ってほしいと考えています。
もし今の自分の仕事がAIによって代替されるとしても、それを止めようとするのではなく、どんどん取り込んで「自分のものにする」ことが重要です。最終的には、新しい仕事を作るくらいのマインドでいかないと、結局生き残れない。むしろ、その方が健全だと思うんですよね。
Q: 最後に、他の教育機関の先生方に向けて、AI導入や活用について何かアドバイスはありますでしょうか?
パソコンが普及した当時、パソコンを使いこなせる人とそうでない人がいましたが、今やパソコンは仕事をする上で必須のツールとなっています。AIもこれと同じ流れになることは間違いありません。ですから、まずは「怖がらずに使ってみる」という意識を持つことが重要だと思います。
学生たちが今後AIを使いこなしていくためには、AIに指示を出すための「問いを作る力」や「質問をする力」が非常に重要になってきます。AIは、こちらが何かを投げかけなければ、良い答えを返してくれません。そのため、「何をやりたいのか」「何を解決したいのか」を明確にする力、そして、ひとつの視点にとらわれず、幅広く物事を考える「引いて考える力」を養うことが、AIをうまく使いこなす上で不可欠だと考えています。
最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、AIを活用することで業務の効率化につながったり、新たな発想が生まれたりする可能性は大いにあります。まずは、アンケートの集計のような比較的簡単な業務からAIを導入してみるのも良いかもしれません。
社会人になった今だからこそ感じるのですが、学生って100%自分の時間を好きなことや学びたいことに使えるんですよね。それは本当に羨ましいことだなと。だからこそ、AIが好きな学生は、100%AIに時間を使っているわけで、そりゃあ学生の方が詳しくなるに決まっています。 それはもう当然のことですよね。だから、そうした詳しい人たちの気持ちを折らないようにすることが大事だと思っています。