デジタルハリウッドアカデミー
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【第6弾】生成AI×教育実践事例インタビュー|印象派に次ぐ生成AI時代とは

2024年11月15日作成
はじめに
デジタルハリウッドは、ChatGPTをはじめとする生成AIを活用した教育実践を広く皆様に共有しております。今回は、ゼミナールにて学生指導をしている茂出木謙太郎准教授(デジタルハリウッド大学)にインタビューをし、生成AIをどのように活用しているのかについてお話をいただきました。

茂出木謙太郎准教授プロフィール
株式会社キッズプレート 代表取締役。東京造形大学卒業後、(株)トミー(現タカラトミー)に入社。その後広告代理店を経て、1995年に(株)IBMの子会社に入社。Webディレクターとして大手企業のWebサイト構築を行いつつ、WebVR技術を活用したショッピングモールを通産省の実験として構築する。
2007年に株式会社キッズプレートを設立。コロナ禍より以前から、遠隔でのVR技術による授業参加の可能性に注目し、アバターによる会議参加システム「NICE CAMERA」を開発。授業では全員アバターによるメタバースでの授業、遠隔での授業を行い、メタバースを活用した次世代の生き方について検証と実践をしている。デジタルハリウッド大学大学院卒業生。
https://www.dhw.ac.jp/faculty/teacher/modeki/


Q: 茂出木先生はゼミナールで生成AIをどのように活用なさっていますか?
A: 私は「NICE CAMERA」というPC1台でアバター操作ができるアプリを開発しています。アプリにはChatGPTが内蔵されたAIアバターと対話をする機能(AI-Kata)が搭載されているのですが、AIアバターと対話をするためには、プロンプトを入力してAIアバターの性格や語尾を決める必要があります。この設定を行う過程でプロンプトの入力方法を学び、そのプロンプトでどのようにアバターが動くのかを理解してもらっています。
こういったものを、ゆくゆくは、メタバース空間やVRチャットにAIアバターを配置し、人々が自由にAIアバターとコミュニケーションができると面白いと考えています。

Q: 他の利用例を教えていただけますか?
A: 画像生成AIを使ってプレゼンテーションツールを作ったりしています。レンタル写真ではなかなか使い勝手の良いものがないので、図や絵を画像生成することで、自分の思い通りの資料を作っています。
また、ChatGPTをGoogleドライブに連結させてドライブ内の資料の要約や資料化もしていますね。ChatGPTの再学習による情報漏洩を防ぐことができるプライベートモードに設定する必要がありますが、学生が提出したアンケートやレポート課題を読み込ませて、箇条書きや要約をしてまとめてもらうこともあります。

Q: 茂出木先生が積極的に生成AIを活用していらっしゃるぶん、ゼミナールの学生さんにはAIフレンドリーな方が多いのですか?
A: 彼らがどこまで使いこなしているかは全員把握していないです。ただし、AIを使った方がいいという話はよくしていますし、自由にAI利用をさせています。

Q: 生成AIで出力したものを課題にコピペする学生について話題になっていますが、先生のご見解を教えていただけますか?
A: 学生がAIを使って課題を提出しているかどうかについては、あまり気にしていません。授業の中で手書きがワープロになり、ワープロがAIに変わっていくだけだと思っています。ただ、私のゼミナールではレポートをただ書かせるだけのことはしないので、生成AIをうまく使いこなしてくれればいいなと思います。

Q: 茂出木先生にとって「生成AIをうまく使いこなす」とはどういうことを指しますか?
A: 「生成AIをうまく使いこなす」には、2つの側面があると思います。1つはユーザーとして生産性を上げるためにAIを使いこなしてアウトプットすることです。もう1つは、生成AIの仕組みやAPIを理解して、自分のサービスや制作物に反映させることができるようになることです。
この2つは別々ではなく、連携すると考えています。なぜなら今後は、AIと相談しながらプログラミングをしていくような時代に急速に突入していくからです。そこで生成AIをうまく使いこなして、自分で急速にプログラムや作品を作っていくことが大切だと思います。それは絵でも3Dモデルでも映像でもイラストでも、何でもそうだと思っています。

Q: なるほど。クリエイティブ分野でも「生成AIを使いこなして作品を制作するスキル」が求められるのですね…!
A: この間、学生たちと一緒に「モネ&フレンズ・アライブ」という展示に行きました。その展示は大きなスクリーンをさまざまな形に配置して、絵を切り出したり、映像と一緒に流したり、音楽と一緒に流したりして、まるで絵に包まれるような感じで演出していくイマーシブシアターという形式をとっていました。
そのときに学生たちにも話したのですが、生成AIを取り巻く現代は印象派が台頭した時代と同じ状況なんです。

Q: 現代と印象派の時代が同じ状況とは、どういうことでしょうか?
A: 印象派というのは、新しい技術が台頭してきた結果として登場した絵なんです。絵の具のチューブが発明されるまでは、絵の具は持ち運びができなかったわけです。しかし、絵の具のチューブが発売し持ち運びができるようになったことで、アトリエで絵を描くのが当たり前だった絵画が、どこでも描けるようになりました。そして、その結果、風景や街の人々の営みを描けるようになりました。

また、同じ時期に写真機が発明され、宮廷画家やアカデミーで描かれていたような写実的な絵を描かずとも、写真で形を残すことができるようになったんです。これにより、絵で形を残すことに意味があるのか?という問いが生まれました。
そこで印象派は、「色彩」と「感じたこと」の2つを重要視するようになりました。なぜなら、当時の写真には色彩がなかったからです。そして、その瞬間を切り取るのではなく、その瞬間に何を感じたのかを表現しようとしました。
当然、これらはアカデミーから大反対を受けました。「お前たちが描いているものは全然違う」と。そこで印象派の人たちが何をしたかというと、「じゃあ、別に自分たちで展覧会をやりましょうよ」ということで、印象派展をパリで行ったわけです。
この流れは、まさしく生成AIで起こっている状況と一緒なんです。

Q: なるほど、確かに同じ状況ですね…!
A: AIはその場で指示を出せば色々なものが作れてしまいます。そういった全く新しいものづくりの時代に突入しており、古いものと戦っている状況があるんです。
「パソコンを使って描く絵は絵なんかじゃない」と言われた時代もありましたが、さまざまな世代を経てそうした議論が繰り返されてきました。そして今の子たちは、ポストモダンのような時代に立ち会っているわけです。

おそらく、これからは「ポストモダン」のように、新しいアート運動を指す言葉が生まれていくのでしょう。そして、生成AIを使いこなして作品を制作している人たちは、次の世代を担う者としてそういった新しいことに取り組むのでしょう。つまり、私たちはまさにその場に立ち会っているのです。逆に、生成AIを使いこなせないと、「古い人たち」という認識をされてしまうんじゃないですかね。

Q: 学生が生成AIを取り巻く次世代で活躍するために、教員はどのように指導をすると良いのでしょうか?
A: 生成AIを学生に実践的に教えるには、いくつかの課題があります。生成AIの技術は急速に進化しており、昨日話していたことが今日には新しくなってしまうこともあります。このような状況では、固定的なカリキュラムを作ることが難しいため、教員は学生に対して柔軟で実践的な教育を提供する必要があります。
具体的には、生成AIの基本的な仕組みや効果的な活用法を教えることが重要です。技術の進歩に合わせて、学生が自ら学び続ける能力を育成することも求められます。

また、技術的な部分で何を追いかけ、何ができるのかを理解させることも大切です。AIがどのような特性を持ち、どのように機能するかを理解することで、学生はより効果的にAIを活用できるようになります。
ただし、この急速な技術進化についていくのは容易ではありません。そのため、教員同士で勉強会を開き情報を共有することが有効です。学生も参加させることで、彼らの知識や経験を活用し、教員と学生が共に学ぶ環境を作ることができます。
重要なのは、教員が「教える側」という固定観念にとらわれず、「一緒に学んでいく」という姿勢を持つことです。このようにして、生成AI時代において柔軟で効果的な教育環境を築くことができるでしょう。

Q: 教員には生成AIの技術的な部分のキャッチアップが求められるのですね。
A: その通りです。しかし、技術的な側面だけでなく、学生に基本的なことをしっかり指導することも重要です。現在、日本のクリエイターの中には、生成AIに対して抵抗感を抱いている人が多いです。法律的には生成AIを使うことは問題ありませんが、自分たちが努力して描いてきた絵を、テキストを数行入力するだけでAIが作成してしまうことに対する不安や嫌悪感があります。
とはいえ、私が確信を持って言えることがあります。それは、絵を描く技術や理解がない人が生成AIを使っても、優れた作品は生まれないということです。良い絵を描くためには、その絵がなぜ良いのかという基本的な理解が不可欠です。
したがって、生成AIが普及しても、教員は学生に対して創造性や芸術的な判断力を育む教育を続ける必要があります。生成AIはあくまで道具であり、その道具を使いこなすためには、人間の創造力や理解が必要なのです。

Q: 生成AIが台頭しても教員が学生に基本的な指導をすることは変わらないということですね。
A: その通りです。生成AIが台頭しても、教員が学生に基本的な指導をすることの重要性は変わりません。むしろ、AIの時代だからこそ、人間の創造性や判断力を育むことがより重要になってきています。
生成AIは確かに多くのことができますが、それ自体は思考や創造性を持っているわけではありません。AIが生成する作品には、人間が持つような深い思想や歴史的文脈が欠けています。そのため、クリエイティブな作品を生み出す本質的な部分は、依然として人間の仕事なのです。
重要なのは、AIを使って作品を制作する際に、その作品の良し悪しを判断するのは人間だということです。AIはツールであり、それを使いこなし、生み出されたものを評価し、改善していくのは私たち人間の役割です。

現時点では、真にクリエイティブなことはまだAIにはできません。AIは既存の情報を基に編集や再構成をしているに過ぎず、人間の創造性にはまだ追いついていません。
10年後には状況が変わっているかもしれませんが、今のところは人間が新しいものを生み出す力を信じるべきだと思います。ですから、「AIに全てを任せる」のではなく、「AIを使って良い作品を作る」という発想が大切です。この考え方を学生に伝え、AIと共存しながら自身の創造性を発揮する方法を指導していくことが、これからの教育には求められるでしょう。

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