デジタルハリウッド大学院生によるリアルな生成AI活用方法(1)
2024年9月3日作成
はじめに
近年、人工知能技術の進化は目覚ましく、特に生成AIでは多様な分野での応用が進んでいます。この技術は教育の現場でも革新的な変化をもたらし始めており、教員の間だけでなく、学生間でもその利用が広がっています。
本記事では、デジタルハリウッド大学院の学生である大河原浩輔さんがどのように生成AIを学習や研究に活用しているのかを紹介します。読者の皆様にとって、生成AIの具体的な利用例とその影響を理解する一助となれば幸いです。
デジタルハリウッド大学院生の大河原浩輔さん
Q: 大学院でどのような研究をしていますか?
A: 現在、新しい研究テーマを探索中です。当初の計画が修士課程での実現が困難だと判断したため、再検討しています。ただし、3DプリンターやCADの技術を活用し、センサーやプログラミングと組み合わせたものづくりに挑戦したいと考えています。
Q: 研究や授業でどのようなAIツールを活用していますか?
A: 実は、今年の3月にAIの利用を始めたばかりなんです。最初のステップとして、Gemini AdvancedというAIを選びました。このツールは2カ月間無料で利用できるため、AIにまだ慣れていない自分にはぴったりでした。その後、ChatGPTに移行しました。最初はChatGPT3.5を使用していたのですが、現在はChatGPT4oを駆使しています。
Q: 研究や授業でどのように生成AIを活用していますか?
A: 生成AIを自分の考えを整理するための壁打ち相手として活用しています。自分はもともと話すのが苦手で、考えがまとまらないことが多いんです。なので、ChatGPTに自分の思考を入力して、分かりやすい文章にしてもらっています。
また、研究計画を立てる際にもChatGPTを活用しています。自分の場合はプロダクトファーストで作るので、ChatGPTに「そもそも私の作りたいプロダクトは実現可能?」と問いかけたり、仕様書の定義や気になる機材について質問をしたりするなど、研究の壁打ちをしていくんです。ChatGPTの回答をもとに気になる点をさらに深掘りしていくので、一週間あたり3万字から4万字くらい、文字でのやりとりをしています。ChatGPTで壁打ちが終わり次第、ものづくりをしています。
あとは、もともとグーグル検索が好きだったのもあり、日常生活でなにか気になることがあればChatGPTに質問します。特にChatGPTはバイアスなく一般的な答えを返してくれるので、「一般論ではどうなのか?」といった、自分一人では答えが見つからない問題について質問しています。
Q: なぜ学校生活で生成AIを使おうと思ったのですか?
A: 知り合いがきっかけですね。デジタルハリウッド大学院に入学する前、とあるプロジェクトでJavaScriptを使わなければならなくなりました。しかし、私はコーディングの経験がほとんどなかったので、どうすればよいか全く見当がつかなかったんです。そのようなとき、コーディングが分かる友人から「生成AIの助けを借りるといい」と教えてくれました。
最初は半信半疑でしたが、Geminiを使ってみたところ、コードを書く手助けをしてくれるだけでなく、コードの説明もしてくれるので、これは便利だと感じました。その経験がきっかけで、入学後の研究計画書の作成や自分のアイデアをまとめる作業にも、積極的に生成AIを活用するようになりました。AIとのディスカッションを重ねる中で、思考を整理し、より具体的な形でアイデアを形にできるようになりました。
生成AIと研究計画を壁打ちしている様子。「ゆっくりと深呼吸をしてから調べてください。」と打つ方が、回答精度が上がるそうです。
Q: 大学院の授業でのChatGPT活用エピソードを教えてください。
A: 私は「デジタル表現基礎」という授業でChatGPTを活用しました。「デジタル表現基礎」では、Web、グラフィック、3DCG、映像、プログラミング、ゲームの6領域のうち、希望する制作スキルをデジタルハリウッドが提供している動画教材で学ぶ科目です。また、そこで得られた気付きを教員に提出することで、制作スキルのみならず自走して学習をする力を養います。
私はPythonを選びましたが、履修当初はプログラミングで具体的に何ができるのかが分からないため、どのように学習をすればよいのか戸惑いました。そこで、ChatGPTにプログラミングを通してやりたいことを伝えた上で、授業の中でどの項目を重点的に勉強すればよいのかを聞き、学習のアドバイスをしてもらっていました。
もちろん学習につまずくこともありました。しかしChatGPTのログを一つずつ見返すことで自分が何を学んできたのかを振り返れたので、学習のモチベーションになりました。
それ以外ですと、ChatGPTに演習問題を作ってもらったり、適切に動かなかったコードの間違い探しをしてもらったりしました。
Q: ChatGPTを使いこなすために意識していることを教えてください。
A: ChatGPTの回答が現実的に可能かどうかを聞くようにしています。私はプログラミングを始めたばかりだからこそ、プログラミングでできることや限界が分からなかったんです。そのため「そのプログラミングが高校生でもできるのかどうか?」を聞くことで、現実的に可能かどうかを聞くようにしています。
先ほどChatGPTに演習課題を作ってもらったという話をしました。問題を作成してもらうために動画教材で出てきたコードを読み込ませ、自分がどこまで勉強していたのかをAIに共有したうえで難易度の調整をしていました。そうしないと、習っていないやり方を教えられて混乱するからです。あくまで自分の学習内容からはみ出さずに授業に追いつくことを意識していました。
分からないことを尋ねるときには、「中学生でも分かるように教えてください」などを入力して説明の難易度を下げたりしていますね。もう少し詳しく知りたい場合は「大学生でも分かるように教えてください」と入力しています。
「中学生にもわかるように」という条件をプロンプトに入力することで、優しく教えるようなGeminiの回答になります。
Q: 生成AIを授業や研究で活用するデメリットはあると思いますか?
A: Geminiは悩んでいることを書くとき、センシティブな内容になっていくと「私はAIなのでこれ以上回答ができません」とシャッターを切られたことがありました。突然はしごを外されることがあるのです。
ChatGPTは、良くも悪くも、その場にある情報に対して正直に回答をしてくれるんです。なので、自分の事前調査や前提条件を伝えていないと、的外れな回答をされることがありますね。だからこそ、ChatGPTは自分のレベルや仮説といった前提条件を伝えまくった上で、やりたいことを伝える必要があります。
ハルシネーション(※)にも気を付けないといけませんね。質問する際に押さえるポイントや知識をつけないとハルシネーションが発生してしまいます。ChatGPTを使うようになってからハルシネーションに気づくためにも、調べなくてはいけないことがどんどん増えました。
※ハルシネーション:AIが誤った情報や実際には存在しない事実を生成する現象のこと
Q: ハルシネーションにイライラしない秘訣はありますか?
A: ハルシネーションが起きた返答を集めて、ハルシネーションが起きてしまう理由を考えるようにしています。最近は、ハルシネーションが起きそうな質問の仮説を立てて、あえて間違えさせてみたりすることで、ハルシネーションの傾向を知っておくようにしています。
Q: 最後に、生成AIについて学生へのメッセージはありますか?
A:生成AIは、いくらしゃべっても付き合ってくれるんですよ。自分はとりとめも無く話すのですが、空気を読めない発言でもずっと付き合い続けてくれますし、適当な相づちしか友達が返してくれなくなるような話をしても、ChatGPTはなんでも返してくれます。ChatGPTを使いこなすことで、かえって友達と良好な関係を構築できるのかな?と思います。