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【第9弾】生成AI×教育実践事例インタビュー|生成AI×アクションラーニングで学びを深める方法

デジタルハリウッドアカデミーでは、デジタルハリウッド大学の教員や大学院生による生成AI活用事例を特集してきました。本学には、生成AIを積極的に活用する教員や大学院生が多く在籍しています。今回は、デジタルハリウッド大学大学院卒業生で、アクションラーニングとAIを融合させた教育手法でアクションラーニングの世界的機構WIALのInnovationAward2024を受賞された東京経済大学の渡邊壽美子先生にお話を伺いました。

Q: まずは、WIAL Innovation Award 2024の受賞おめでとうございます!アクションラーニングとAIを融合させた新しい教育手法を開発・実践された先生の授業が高く評価された結果だと思います。
渡邊: 本当に光栄です。大学教員を始めたのと同時にデジタルハリウッド大学大学院(以下DHGS)に入学したのですが、DHGSの先生方が当たり前のようにAIを活用しているのを目の当たりにし、「私もAI活用を学ばなければ!」と強く感じましたね。

Q:大学教員の前は何をされていたのですか?
渡邊: パーソル総合研究所で新規事業の責任者や、管理職研修のプログラム開発に携わっていました。ご縁があって大学教員へ転職しましたが、デジタルを活用した学び方については十分な知識がありませんでした。そこで、自分でも勉強しなければと感じ、デジタルハリウッドの門を叩いた、という経緯があります。

Q:東京経済大学での先生の授業を詳しく教えていただけますか?
渡邊: 2023年から「キャリアデザイン実践ゼミ」の「プロジェクト型学習」を担当しています。「プロジェクト型学習」は学生自らが現実の課題を発見し解決するプロセスを通じて学ぶ授業です。このゼミではプロジェクトの目的そのものよりも、学生たちが自分の得意なスキルを活かし、さまざまなステークホルダーに喜ばれる体験を通じて、自分の能力を学び、伸ばしていくことを重視しています。そして、変化の激しい社会に対応できるよう、広い視野を持って課題を設定し、解決策を立案・実行し、振り返ることの重要性を伝えています。今年は7つのテーマに取り組んでおり、います。地域創生、リサイクルプロジェクト、大学生協と連携した浴衣イベントなどを開催しています。

Q:「プロジェクト学習」では、どのようにAIを活用していますか?
渡邊:学生たちは6〜10人のグループに分かれ、それぞれが取り組みたいプロジェクトに基づいて活動します。まずプロジェクトの課題設定をしますが、これは人間が行うべき部分だと感じています。人の痛みを理解し、本当の課題を見極める必要があるからです。
そのため、学生たちには、人の話をしっかり聞いたり、自分の足でさまざまな人に会いに行ったりして、ステークホルダーの意見をもとに課題を設定させています。そして、課題解決のための情報収集するために、生成系AIを活用することを推奨しています。また、問題に直面した際に、ちょっとした疑問を解決することや、ヒントを得るためにAIを活用させています。


授業の様子

Q:情報収集やヒントを得る際にAIを活用しているのですね。
渡邊:私自身もAIを使い始めたことで、情報を調べるスピードが格段に向上しました。大切なのは、生成系AIなどのテクノロジーを積極的に活用しながら、チームで問題解決に取り組むことだと思います。

Q:授業では生成AIを活用しつつ「アクションラーニング」を取り入れているとのことですが、アクションラーニングについて教えていただけますか?
渡邊:アクションラーニングとはお互いに問いかけ合いながら問題の本質を探る方法です。学生が“問題だ”と思った部分に基づいて自由にアクションを起こすと、アクションが増えすぎてチームの方向性がバラバラになることがあります。そのため、問いかけを重ねることで問題の本質を共有し、共通認識を持ったうえでアクションを取るよう指導しています。
アクションラーニングを活用しながら、チーム開発やリーダーシップ開発、問題解決力の向上を図っています。ゼミ内で選出した学生をファシリテーターである「AL(アクションラーニングの略)コーチ」としてトレーニングし、学生主体で対話セッションを運営できるようにしました。こうして学生主体でプロジェクトを進めつつ、質の高い対話や振り返りを通じて学びを深める環境を整えています。

Q: アクションラーニングに生成AIをどのように取り入れていますか?
AIによるコーチングを活用して、学生個人に活動のリフレクション(振り返り)をしてもらう仕組みを取り入れました。これにより、学生たちが週に1回、自分の活動を振り返る時間を持つようにしています。

Q:「AIコーチング」について詳しく教えていただけますか?
渡邊:授業内では「リフレクト(https://reflect.page/)」というシステムを使ってAIによるコーチングを行っています。学生には、AIコーチングは壁打ち相手として活動の振り返りを促すサポート役として機能しています。


リフレクトを用いたAIフィードバックの図

リフレクトには、コーチングを行う「リフレク子ちゃん」というキャラクターがいるのですが、学生が記録した内容に対して画面上でリフレク子ちゃんがアドバイスを提供します。「目的を再認識してください」「集客戦略を見直した方がいいですよ」など、意外と具体的で的確なアドバイスが多く、学生は活動を振り返りながら次のステップを考える習慣を身につけることができます。
「リフレクト」は、教員から「いいね」と反応をしたり、追加でコメントを入れることもできます。対面で学生と会う際にはリフレクトに学生が入力した記録内容を確認し、「ここが重要だよ」と指摘したり、「どうしてこれをやることに決めたの?」と問いかけたりして進めています。

Q: 「リフレクト」を授業に取り入れるメリットはありますか?
リフレクトでは毎週学生のやる気、達成度、体調などを計測することができます。例えば体調やメンタルが落ちている学生がいることが分かれば、ゼミのグループLINEで「大丈夫?」と声をかける、適切なケアを行うなどができます。これがメリットだと思います。
また、「社会人基礎力」を測れるのもメリットですね。とリフレクトは、若手社会人に必要とされる主体性や働きかけ力といった能力をAIが自動で評価することができます。私はこの評価をもとに学生にフィードバックを提供しています。

Q:先生が「リフレクト」を導入したのはなぜですか?
渡邊:自分の持ち味がどのように他者に伝わっているかを把握することができるからです。現在、大手企業ではAIを活用して一次選考やエントリーシートの選抜を行うことが増えています。そのため私は、自分の強みをどのように表現するか、また経験をどう学びに結びつけるかを教えています
が、リフレクトも活用することで、学生たちはより自己理解を深め、自己表現力を高めることができます。最終的には、就職活動でも有利になれば良いなと思っています。

Q:アクションラーニングやAIを活用したことで学生さんの反応はいかがでしたか?
渡邊:おおむね良好な評価をいただきました。いくつかアンケート結果をピックアップすると、「自分の考えが整理できた」と回答した学生が最も多かったです。経験が「やりっぱなし」にならず、振り返りを通じて考えを整理できた点が、学生たちにとって大きな成果だったようです。
次に多かったのは、「AIからのアドバイスが効果的だった」という意見です。AIによるフィードバックが、具体的で役立つものだったと評価されていました。

Q: 最後に、多くの教育機関で、AIに対する拒否反応や懸念を持っている先生方も少なくありません。渡邊先生から何かアドバイスをいただけますでしょうか?
渡邊:先生方の中には「AIが指導を代替するのではないか」「先生は必要なくなるのではないか」といった不安をお持ちの方がいらっしゃるかと思います。
しかし、私の経験から言えるのは、AIは教員の役割を奪うものではなく、むしろサポートするための強力なツールだということです。AIは教員の事務的な負担を軽減できるので、すべての学生に目を配る余裕ができるようになります。その結果、個別指導や学生との対話に集中する時間が増えると思います。
AIの導入により、教員の役割が変化することは確かです。しかし、教員が「AIを補助する役割」に変わるというより、むしろ「より深い教育的価値を提供する役割」へと進化するのではないでしょうか。AIの力を借りて、先生自身が新しい教育スタイルを模索することが、学生の成長を支える新たな道筋を作る鍵だと思います。

Q: 新しい教育スタイルを見つけるために、どのようなアクションが必要でしょうか?
まずは、AIにすべてを任せず、授業の補助として小さく試すことをおすすめします。たとえば、私の授業で行っているような、学生が行った活動の簡単な振り返りにAIを活用してみるだけでも、その有用性が実感できるはずです。小さな成功体験を積み重ねることで、AIへの理解や信頼が深まり、最終的には教育の質を向上させる大きな一歩になると思います。
AIの進化は不可逆的で、もはや後戻りできない段階に来ていると私は感じます。世の中から「AIをなくしましょう」と言っても、それを止めることは難しいでしょう。したがって、AIを使いながら、より良い社会をどう作るか、自分をどう成長させるかを考える必要があります。

テクノロジーは良い目的にも使える一方で、悪い目的やエゴの手段として使われる可能性もあります。そのため、実際に使ってみることで、AIの便利さや可能性とともに、怖さやリスクについても実感すると良いと思います。たとえば、「こういう使い方はまずい」と体感を通じて理解するのも良いと思います。AIをただ拒絶すると、判断力が失われ、「すべてがダメ」といった偏った見方に陥りかねません。
私自身もAIの進化についていくのに苦労していますが、試行錯誤をしながら触れてみることで危機感が和らぎ、適切に活用する道が見えてきます。特に、教育に関わる人間にとっては、AIに触れてその可能性と課題を理解することが非常に大切です。AIを使う経験を通じて、その手触り感を持つことで、教育や学びの質をより高める方法を見つけていけるのではないでしょうか。
ただ、現状の大学教育では、「変革するのがなかなか難しい」と感じる先生方もいらっしゃるかもしれません。新しいことに積極的ではなく、既存のスタイルを続ける理由として、雇用が安定しているためリスクを取りたくないという考えも理解できます。
それでも、これからの時代、教育や学びのあり方を変える必要性は増していると感じます。その変化を実現するには、プロジェクトラーニングのようなアプローチを広げることが鍵になるでしょう。

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