デジタルハリウッドアカデミー
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【第1回】クリエイターと生成AIのリアル|AI時代にクリエイターを育成する教育機関が果たすべき役割とは?

2025/01/27作成
はじめに
これまでデジタルハリウッドアカデミーでは、デジタルハリウッド大学の教員や学生による生成AIの活用事例を紹介してきました。
今回は、デジタルハリウッド卒業生であり現役イラストレーター/デザイナーの北沢直樹さんにインタビューを行い、クリエイターとして生成AIをどのように活用しているのかを伺いました。
また、生成AI活用におけるモラルの課題や、AI時代にクリエイターを育成する教育機関が果たすべき役割についてもお話いただいています。
ぜひ最後までお読みいただき、現代のクリエイターにとって重要な視点をご一緒に考えてみてください。

Q: 北沢さんの自己紹介をお願いします。
改めまして、北沢と申します。普段はイラストレーターやキャラクターデザイナーとして活動しており、「ONE PIECE」や「攻殻機動隊」のデフォルメキャラクターの制作や、ロゴやタイトルのデザイン業務を行ってきました。また、アドビ社と協力してAdobeツールの普及を目的としたワークショップやプロモーション活動にも取り組んでいます。

Q: 最近、Adobeの画像生成AI「Adobe Firefly」に関する書籍を出版なさったんですよね。
そうなんです。Adobe FireflyとはAdobeが開発した画像生成AIです。プロンプトを入力すると、写真やイラストを生成することができます。世の中には様々な画像生成AIがありますが、Adobe Fireflyの最大の特徴は、著作権や倫理面に配慮した安全なデータセットを使っている点です。したがって、生成した画像を安全に商用利用できます(※1)。
昨年、Adobe Fireflyを詳しく知らない方向けにAdobe Fireflyについての本を出版しました。
(※1)詳しくは利用規約をご確認ください

Photoshop & Illustrator × Adobe Firefly “プロの現場”で使えるテクニック
「Photoshop & Illustrator × Adobe Firefly “プロの現場”で使えるテクニック」マイナビ出版

Q: 書籍はどのような内容ですか?
Adobe Fireflyの仕組みや安全性、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorと掛け合わせて活用する方法などをレクチャーしています。私は Adobe Fireflyでオリジナルキャラクターをデザインする方法についての章を執筆しました。

Q: 北沢さんはどのような生成AIを使っていますか?
私はAdobe Fireflyしか使っていません。CopilotやMidjourneyなど様々な生成AIがありますが、安全性を踏まえて、Adobe Fireflyのみを利用しています。

Q: Adobe Fireflyをクライアントワークでどのように使っていますか?
私は1年ほど前からAdobe Fireflyを使ったクライアントワークを行っています。
例えば、バナーやデザイン作成の際、クライアントからの依頼内容がふんわりしている場合にAdobe Fireflyを使ってイメージのすり合わせをすることがあります。例えば、クライアントから「黒猫のギタリストを作ってほしい」という依頼があった場合、まずAdobe Fireflyで黒猫のギタリストの画像をいくつか生成します。クライアントに納得していただける画像があれば、その画像を参考に下絵を作成します。

生成AIで作成した黒猫のギタリストの画像
Adobe Fireflyで作成した「黒猫のギタリスト」(筆者作成)

Q: 個人活動でもAdobe Fireflyを使っていると伺いました。
個人活動として、Adobe Fireflyを使って「ジェネモン」というオリジナルモンスターを作成しています。先ほど話したように、Adobe Fireflyは商用利用が可能です。そこで、作成したジェネモンをPhotoshopで加工し、ガチャガチャ用のキーホルダーとして商品化しました。これまで、200体以上のジェネモンを生み出しています。

ジェネモンという生成AIキャラクター
https://naokikitazawa.com/genai/ より画像引用

Q: 実際に生成AIが登場した時、どのようなことを率直に感じましたか?
「仕事が楽になるかもしれない」と思いました。生成AIの登場によって「自分の仕事が奪われるかもしれない」と不安を抱くイラストレーターもいます。しかし私は生成AIをポジティブに捉えていますね。自分の作品を生成AIに学習してもらい、出力された画像を活用することで効率的に作業が進むと考えています。

Q: 生成AIによって「自分の仕事が奪われる」と感じるクリエイターと「自分の仕事が楽になる」と感じるクリエイターとの差はどこにあると思いますか?
「自分の仕事が奪われる」と考えているイラストレーターは、生成AIに自分のイラストを学習されたら誰もが簡単に仕事を得られるため、自分の仕事が無くなるのではないか?と懸念しています。
しかし、少し生意気な発言かもしれませんが、仮に生成AIに自分のイラストを学習されたとしても、私自身はより良い作品を生み出せる自信があります。このように、生成AIをどう捉えるかによって、クリエイターの認識や態度に違いが生まれるのではないでしょうか。

Q: クリエイターとしての自信を持つことは大切なのですね。
ただし、X(旧Twitter)の、「ユーザーがアップロードした画像は勝手に生成AIの学習データとする」といった方針には反対しています。著作権を侵害されるようなことや、無断で作品を学習されることは決して許されるべきではなく、クリエイターの権利は守られるべきだと思っています。
また、自分のイラストを許可なく生成AIに学習させ、不特定多数が商用利用できるような状況にさせるのも良くないと思います。

Q: 「自分のイラストを許可なく生成AIに学習させ、不特定多数が商用利用できるような状況」について、具体的に教えていただけますか?
この状況は、私がハローキティのイラストを「模倣」して販売するのと同じだと思っています。
もちろん、私もハローキティなどの可愛いキャラクターを参考にすることがありますが、あくまで「参考」にするだけです。具体的には、デザインの要素や雰囲気からインスピレーションを得つつ、最終的には自分なりのテイストや色使いを加えて、独自の作品に仕上げます。一方で、何も考えずにそのまま「模倣」するのは、著作権侵害に当たるため、許されない行為だと考えています。自分のイラストを許可なく生成AIに学習させ、不特定多数が商用利用できる状況は、「模倣」と本質的に同じ問題を抱えていると思います。

Q: 画像生成AIを適切に利用するための議論は重ねていく必要がありますね。
著作権の意識を普及させるための議論も重要だと思います。例えば、街のパン屋さんで勝手にアンパンマンのパンを売っているお店がありますが、あれは著作権的に良くないことです。同様に、画像生成AIを使うのであれば、著作権に留意したいところです。
もしも先生方が学校現場で画像生成AIを取り入れたいと考えている場合は、Adobe Fireflyといった安全性の高い生成AIを紹介するのも一手かと思います。

Q: 生成AIは今後、クリエイティブ業界で必須のツールになるのでしょうか?
インターネットの使用が「普通」になったように、生成AIを使うことも今後は「普通」になっていくと思います。現時点でも、Photoshopは生成AI機能を使わないと作業効率が大きく下がってしまいます。例えば、背景や人物の消去、不要な線や物体の除去などは、生成AIの方が圧倒的に綺麗で便利です。こうした機能を活用することが、業界内では一般的な流れになると思います。

Fireflyで編集をしたあじさいの画像
Photoshopの生成AI機能。被写体を選択しプロンプトを打つことで、簡単に画像編集ができます。ここでは青いあじさい(下画像)を自然な紫色に変更しました(上画像)。

Q: クリエイターを育成するにあたって今後も教えていく必要があるスキルとしてどういったものが挙げられますか?
デザインとは何かを学び、それを表現するためにどのデザインツールを使うのかを選択するスキルは、引き続き必要だと思います。
また、どの部分が良くてどの部分の改善が必要なのかを判断するスキルも今以上に求められると思います。たとえばAdobe Fireflyでは生成結果として複数のパターンが提示されますが、その中からどれを選ぶかにもクリエイターの個性が現れるはずです。この選択力を養うことが、生成AIを効果的に活用する鍵になると思います。
さらに、今まで以上にデザインツールには新しい機能が次々と追加されるでしょう。そこで、このようなスキルを身に付けてもらうために、最新の技術をどう取り入れて教えていくか?については考える必要があると思っています。

Q: 学校の先生方の中には、生成AIを授業に取り込むことにためらいを感じる方もいらっしゃいます。そういった方にアドバイスはありますか?
学生が新しい技術に触れることは、彼らの可能性を広げるための重要な機会になると思います。私自身もデジタルハリウッドで教鞭を取っているからこそ実感するのですが、生成AIのような新しい技術を教えることは、学校や教育現場の責任だとも思っています。
そこで、せっかく新しい技術があるのなら、授業に取り込む前にまずは使ってみてはいかがでしょうか?生成AIを怖いと思って避け続けてしまうと、今後その技術と向き合う時に誤解やミスを犯してしまう可能性があります。それならば、怖いと思っても良いので生成AIを使っていき、学びながら生成AIの理解を深めていく方が良いと考えています。

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